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東京高等裁判所 昭和49年(行コ)3号 判決

東京都墨田区千歳三丁目一七番一一号

右第七号事件控訴人、右第三号事件被控訴人(第一審原告、以下第一審原告という。)

トンボ興産株式会社

右代表者代表取締役

吉野仁

右訴訟代理人弁護士

溝呂木商太郎

東京都墨田区業平一丁目七番二号

右第七号事件被控訴人、右第三号事件控訴人(第一審被告、以下第一審被告という。)

本所税務署長

今井善作

右指定代理人

武田正彦

小山三雄

佐伯秀之

関根正

右当事者間の昭和四九年(行コ)第三号、第七号青色申告書提出承認取消処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

第一審原告の本件控訴を棄却する。

第一審被告の控訴に基き

原判決中京橋税務署長が第一審原告に対し昭和四三年一二月二七日付でした源泉徴収にかゝる昭和三九年六月分の給与所得の所得税についての納税告知および不納付加算税賦課決定処分の各取消請求について第一審被告敗訴の部分を取り消す。

第一審原告の請求を棄却する。

訴訟費用(第一審原告の控訴により生じた費用を含め)は第一・二審とも第一審原告の負担とする。

事実

第一審原告代理人は、右第七号事件について「原判決中第一審原告敗訴の部分を取り消す。京橋税務署長が第一審原告に対し昭和四三年一二月二七日付でした源泉徴収にかゝる昭和三九年六月分の給与所得の所得税についての納税告知および不納付加算税賦課決定処分のうち、第一審原告が同月松岡清次郎に対し二、四八七、五〇八円を臨時的給与(賞与)として支給したものとして計算した部分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を、右第三号事件について控訴棄却の判決をそれぞれ求め、第一審被告指定代理人は、右第七号事件について控訴棄却の判決を、右第三号事件について「原判決中京橋税務署長が第一審原告に対し昭和四三年一二月二七日付でした源泉徴収にかゝる昭和三九年六月分の給与所得の所得税についての納税告知および不納付加算税賦課決定処分の各取消請求について第一審被告敗訴の部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、前記納税告知および不納付加算税賦課決定処分の各取消請求に関する部分につき原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。

第一審原告代理人は、次のとおり述べた。

本件株式を含む高井証券の株式二三五、〇〇〇株の売却代金が再度通知預金として預け入れられ、昭和三九年六月一五日解約されて現金化された経緯は、第一審被告の主張(二の1)のとおりであるが、右現金化された後松岡茂の株式購入資金に充てられたのであつて、松岡清次郎が本件株式の売却益を費消した事実はない。すでに一〇年以上も経過しているので、その経緯の詳細は不明であるが、たまたま発見された昭和三九年一二月中旬の松岡茂の株式買付報告書によれば、総額は一〇、〇八一、七〇〇円であり、同人の昭和三八年分ないし同四〇年分の所得税申告書に記載された配当収入の推移(昭和三八年八〇、〇〇〇円、同三九年七八九、一六六円、同四〇年一、七四七、一二九円)からも本件株式の売却益が松岡茂に帰属していることは明らかである。

第一審被告指定代理人は、次のとおり述べた。

一、昭和三九年六月に解約された松岡茂名義の通知預金一一、六九六、六三〇円には本件株式を含む高井証券の株式売却益一一、六九一、二八六円のほか通知預金の昭和三八年一二月一四日から同月一八日までの四日間の利息五、三四四円が含まれており、右解約による利息一三九、九三〇円は元本とともに費消されて残存しなかつたのであるから、右利息はいずれも右株式売却益とともに費消されたものというべきである。

二、この点を詳述すれば、次のとおりである。

1  昭和三八年一二月一三日、松岡茂から日栄証券へ、同会社から山大不動産への本件株式を含む高井証券の株式二三五、〇〇〇株の売買に関する書類が作成され、松岡茂は、右株式売買の代金として二三、五〇〇、〇〇〇円(一株一〇〇円)から手数料二三、五〇〇円と有価証券取引税三五、二一四円を差し引いた二三、四四一、二八六円を日栄証券振出しの小切手で受領した。右金員は、同日日本信託銀行本店において松岡茂名義の通知預金として預け入れられ、同月一八日解約されてそのうち一一、六九六、六三〇円が再び同銀行本店において同人名義の通知預金として預け入れられたが、同預金も昭和三九年六月一五日解約された。

2  昭和三八年一二月一八日に解約された右通知預金二三、四四一、二八六円は、そのうち一一、七五〇、〇〇〇円が住友銀行日比谷支店の松岡茂名義の借入金の返済にあてられ、残額一一、六九一、二八六円(株式の売却益に相当するもの)は、右解約にともなつて支払われた利息五、三四四円(その計算の根拠は別紙記載のとおり)と併せて一一、六九六、六三〇円として同日再び同人名義の通知預金として預け入れられた。

3  昭和三九年六月一五日右預金も解約され、同日元本とともに利息一三九、九三〇円(その計算の根拠は別紙記載のとおり)が支払われたが、それらの金員はすべて費消されたのである。

三、従つて本件株式の売却益が松岡清次郎において費消したものと認定される以上、同時に費消された預金利息三一、八二七円もまた同人において費消したものというべきである。

証拠として、第一審原告代理人は、甲第八号証の一ないし二六、第九号証の一ないし三、第一〇、一一号証の各一、二、第一二号証の一、二を提出し、当審証人佐田健造の証言を援用し、乙第二五号証、第二八、二九号証、第三一、三二号証の各成立は不知、第二六号証の一、二、第二七号証、第三〇号証の一、二の各成立は認めると述べ、第一審被告指定代理人は、乙第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一、三二号を提出し、前記甲号各証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

一、当裁判所は、本件株式の売却益およびそれについて生じた預金利息がいずれも第一審原告より臨時的給与(賞与)として松岡清次郎に支給されたものと認めるものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正もしくは削除するほか、原判決理由の説示(原判決四九枚目表二行目から六四枚目表八行目まで)と同一であるから、こゝにこれを引用する。

(1)  原判決五三枚目表四行目「認められること」の次に「(甲第一二号証の一の記載は、上記認定を覆えす資料となすに足らない。)」を加える。

(2)  原判決五五枚表末行「旨を供述し、」の次に「成立に争いのない甲第一二号証の一によれば、同人は同趣旨の供述をしており、また」を加える。

(3)  原判決五五枚目裏五行目「しかしながら」とあるを「なお」と訂正し、同五六枚目表七行目「また、その日に」から同末行「来たことはない旨述べ」までを削る。

(4)  原判決五六枚目裏一行目から五七枚目末行までを削り、「右事実によれば同日上西康之が遠山元一と会つたことは推認するに難くないが、前記甲第一二号証の一により認められる、上西康之は遠山元一と月に何回か会つている事実、前叙の如く上西康之が遠山元一に電話をして直ちに会つているとすれば、その秘書が面会予定をメモするとは限らないこと、後記認定の日興証券が買取価格の決定をまつて直ちに融資申込みをして即日融資を受けたのが、同月一三日であることを併せ考えれば、前記同月三日に上西康之が遠山元一と会つた際に本件株式の買取価格が決定されたとみるのは相当ではないといわなければならない。しかしながら、成立に争いのない乙第一九号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので真正な公文書と推定すべき同第二五号証および同第三二号証、当審証人佐田健造の証言によれば、高井証券では大株主である松岡清次郎がその経営に関与することを好ましく思わず、業界の意向も受けて、昭和三八年夏頃より同社々長高良礼一が機会をとらえて松岡清次郎に対しその支配する株式の譲渡(一株当り六〇円位)の意思の有無を打診したこともあつたところ、同年一一月一八日の同社の株主総会が松岡側の異議等により議事に入れず、同年一二月二日に延期され、さらに同月一六日に延期されたので、同社では同月初め頃より業界の支援もえて松岡清次郎の支配する高井証券の全株式一四二万八、五〇〇株を買い取ろうとしたこと、前記上西康之らがその仲介、斡旋をして、高井証券側は買入価格として一株当り七五円を希望したが、松岡清次郎は一三五円を主張したこと、高良礼一は、その頃日興証券株式会社の会長遠山元一に相談したところ、同人から両者の価格の中間をとつて一株当り一〇〇円で折り合いをつけて買取つた方が特策であり、その資金の面倒をみてもよい旨の勧告を受けたので、高良礼一は、早速富士銀行兜町支店に右買取りに必要な資金一億四〇〇〇万円余の融資を申込んだが、同銀行では高井証券には融資できないが、日興証券に対してならば前記買取資金の融資を承諾したので、日興証券は、買取価格がきまらないため、正式の融資申込みはできないまゝ、とりあえず同月初頃融資のわくをとつて貰うため同銀行兜町支店に概算一億五〇〇〇万円の融資の申入れをしたこと、その後前叙の如く同月一〇日頃買取価格が決定し、同銀行に差し入れるべき担保も決定したので、同月一三日正式に買取りに必要な資金の融資の申込みをして即日右資金の融資を受け、同日高井証券の株式の受渡しならびに代金の支払いを了したこと、それにより高井証券の同月一六日の株主総会は無事終了したこと、が認められ、甲第五号証の二の記載中右認定に反する部分は、前記各証拠と対比して措信し難く、他に右認定を左右しうる証拠はない。以上認定事実によれば、松岡茂が第一審原告に対し本件株式の代金二、五〇〇、〇〇〇円を支払つた同月一〇日には、第一審原告および松岡茂は、すでに本件株式を一株当り一〇〇円で売り渡すことができるようになつたことを知つていたか、正確な価格の点は別としても額面額(五〇円)を超える相当高額で売り渡す交渉中であり、その見込みのあることを十分承知していたものといわなければならない。」を加える。

(5)  原判決六二枚目裏一〇行目「乙第二二号証」の次に「いずれも成立に争いのない甲第八号証の一ないし二六」を加える。

(6)  原判決六三枚目裏四行目「甲第四号証の一、二」の次に「ならびに弁論の全趣旨」を、次行「日歩七厘」の次に「もしくは日歩六厘」を、同六行目「計算した利息が」の次に「第一審被告の主張するとおり、それぞれ五、三四四円および一三九、九三〇円であることが認められ、昭和三九年六月一五日解約により支払われた元利金合計一一、八三六、五六〇円(11,696,630+139,930)のうち本件株式の売却益についての預金元利合計は二、五一八、四一七円(〈省略〉)であることは、計数上明らかである。」をそれぞれ加え、同行末尾「発生」から同九行目までを削る。

(7)  原判決六三枚目裏一〇行目「売却益二、四八七、五〇八円」の次に「および預金利息三〇、九〇九円、合計二、五一八、四一七円」を、同六四枚目表一行目冒頭「もの」の次に「(右預金利息を特に除外して考えるべき特別の事由は見出せない。)をそれぞれ加え、同四行目「相当であるが、」とあるを「相当である。」と訂正し、同行末尾「これ」から同八行目までを削る。

(8)  原判決六四枚目表八行目末尾に「いずれも成立に争いのない甲第九ないし第一一号証によれば、松岡茂が第一審原告主張の如き配当所得について所得税の確定申告をしていることが認められるが、前叙の如く松岡清次郎が株式の実質上の所有者であり、名義人についての配当所得に対する所得税を負担してやつていたのであるから、右事実は前記認定を左右するに足らないといわなければならない。」を加える。

二、以上の次第であるから、第一審原告は、昭和三九年六月に松岡清次郎に対し本件株式の売却益およびそれについて生じた預金利息合計二、五一八、四一七円を臨時的給与(賞与)として支給したものと認められるのであるから、第一審原告か同月同人に対し右限度内において本件株式の売却益二、四八四、六五〇円、預金利息三一、八二七円、合計二、五一六、四七七円を臨時的給与(賞与)を支給したものとしてなした本件源泉徴収決定処分は適法であつて、何らの瑕疵はない(源泉徴収にかゝる給与所得の本税額および不納付加算税額か第一審被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。)。従つて本件源泉徴収決定処分の違法を理由としてその取消しを求める第一審原告の請求は理由がなく、棄却すべきである。

よつて原判決は、右と判断を異にする限度において不当であつてこれを取り消すこととし、第一審被告の控訴は理由があり、第一審原告の控訴は理由がないから、これを棄却することとして、民事訴訟法第三八四条第三八六条第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 小林定人 裁判官 野田愛子)

別紙

一、預金利息五、三四四円算出の根拠

(1) 預入期間中の利息 五、六二五円

元本金額二三、四四一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て)について預入期間(昭和三八年一二月一四日から同月一八日までの四日間)における日歩六厘の割合による利率を乗じた金額

なお、通知預金は、七日の据置期間があり、この期間経過後は日歩七厘の利息がつくが、据置期間内に中途解約する場合はその利率は普通預金の利率(当時は日歩六厘)と同率になる。また他店振出の小切手などにより預け入れられる場合には、その小切手が当日交換に回わされるため利息の起算日は預入日の翌日となる。

(2) 所得税額 二八一円(一円未満切捨)

(1)の金額に所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)第一八条第一項、租税特別措置法(昭和四〇年法律第三二号による改正前のもの)第三条第一項に定める税率一〇〇分の五を乗じたもの

(3) 税引後の利息 五、三四四円

(1)の金額から(2)の金額を控除したもの

二、預金利息一三九、九三〇円の算出根拠

(1) 一日当りの利息 八一七円三〇銭

元本一一、六九〇、〇〇〇円(一〇、〇〇〇円未満切捨)に日歩七厘の割合による利率を乗じたもの

(2) 預入期間中の利息 一四七、二九四円

(1)の金額に昭和三八年一二月一八日から同三九年六月一五日までの日数一八〇日(昭和三九年は閏年)を乗じたもの

(3) 所得税額 七、三六四円

(2)の金額に一〇〇分の五の税率を乗じたもの

(4) 税引後の利息 一三九、九三〇円

(2)の金額から(3)の金額を控除したもの

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